人
長らく開業歯科医として医療にあたり、今も師と仰ぐ父の忘れらない言葉があります。
私が小学生の頃、父の医院に勤めていた方に些細な事で腹を立て「辞めさせてやる」と言った事があります。普段は温和で怒った事のない父が「従業員さんを大切にしろ、お前が謝れ!」と叱責したのです。子供の言った事とは言え、父は気配りのできなかった私の言動に我慢ができなかったのです。それから数十年、この出来事は院長の立場になった私の原風景になっています。
「スタッフを大切にする」これが現在の私の原点になっているのです。
1 「 人」(ア) リクルート
歯科医院の経営において、最も重要な事で最も難しいことがスタッフの確保です。いわゆる優秀なスタッフには3つのポイントがあります。第一に医療技術、第二に周囲の信頼を得る対応能力、そして何より医院への忠誠心です。この3つのどれが抜けても患者のために、院長と協力し、全力を尽くす「よいチーム」のいる歯科医院、繁栄する歯科医院にはなれません。倒れる歯科医院になってしまいます。
患者様はもちろんの事、歯科医師や歯科衛生士、事務スタッフも含めて安心して治療を受けられる体制作りが魅力的な歯科医院の要因になり、ひいては医院経営を安定させる事に繋がってくるのです。
診療に対する医療報酬が経営の基盤と考えるならば、これを生み出す優秀なスタッフは医院にとって欠く事の出来ない財産と言えるでしょう。
小規模医院にとってはまずは優秀な人材獲得の仕方、そのつぎに発展する為には労働条件の設定の仕方が重要と言えます。
他者とのコミュニケーション能力も備えたハイレベルな人材を確保する為には、より働きやすく福利厚生の整備を含めた優れた労働条件をアピールする必要があるのです。
1 「人」(イ)リーダーシップ
「より良い医療チームを作る事」を実現する為の院長の仕事の第一義は「目的」「目標」「手段」の植え付けた=リーダーシップと私は考えます。にも関わらず、歯科医院の院長は現場での治療のみならず経理などの事務、広報や会務に及ぶまで日々激務になり、なかなかリーダーシップを取りづらいのが現状です。
チームを効率的に向上させるには目的意識を持たせる事が重要なのです。
目的とは成し遂げようとする事柄、目標とは目的を実現する為に目指すべき方向や状態、そして手段とは実際の医療現場での仕事を意味します。
多くの会社の組織作りでは社員の意識向上をテーマにしていますが、この図式はそのまま歯科医院にも該当するのです。いかにしてリーダーシップを発揮し、患者様の為に「より良い医療チームを作る事」が、そのまま医院経営の成否に関わると言っても良いでしょう。
1 「人」(ウ)コーチング
サラリーマンやOLの会社に対する不満の上位に「人間関係」がランクされています。
もちろん職場に対する不満は、勤務ポジションや待遇もありますが日々の働きやすさに直接関係する人間関係も重要な問題になっているのです。
歯科医院の現場でも、院長からスタッフに対して注意や叱責をしなければいけない場面があります。特に、医院の「目的」「目標」「手段」に対して異なった方向に向いた人物を、正しい方向に導くためには必要なことです。そのために一時的に、嫌な雰囲気になってしまうこともあると思います。
ここで重要なポイントは、スタッフに対してあくまで敬意を持った上で注意をする点です。コーチングの目的は叱責する事ではなく、育成する事、正しい方向に導くことにあるのです。
十分にコミュニケーションを取った院長からの的確なコーチングは、円滑な人間関係を作り出し、スタッフの成長と働く意欲に大きく寄与すると言えるでしょう。